直木賞受賞作品 恩田陸「蜜蜂と遠雷」読後感

この本は良く書かれていると思います。偉そうにすいません。国際ピアノコンクールに関する本ですが、コンテスタントの心の描写、舞台上での心の動きなど、読んでいて何度も目頭が熱くなり、胸が締めつけられました。

コンクールにちょっとでも関わったことのある人、ピアノに限らず芸大・音大などを卒業した人には強く響く作品だと思いますよ。

この作品については幻冬舎のサイトをどうぞ。
http://www.gentosha.co.jp/book/b10300.html

恩田さんは舞台の上でピアノを弾いたとかそういうわけでも何でもないのに(失礼)素晴らしく感覚を理解されているなと思いました。4回も浜松国際コンクールに入り浸っていたのなら判るのかな。いやそんなことはないでしょう。

主要な登場人物がみな、とてつもない天才に見えるのも、コンクールという場所をまるごと体験したことのある人ならよくよく共感できるでしょう。そうなんだよ、コンクールって、やたらめったら燃えるんすよ。

一発勝負だし、ここにたどり着くまでの練習量とか犠牲にしてきたものとかそういうバックグラウンドとかが透けて見えてきますし、コンクールって、こう言ってしまっては身も蓋もないんですがいわゆる普通のコンサートよりもずっと感動する。

しかしここで冷や水をかぶせるようですが、コンクール入賞者は物凄い天才で、誰もが歴史に名を刻むのかというとそうではありません。

いまコンサート活動で世界を飛び回る人たちの多くは、コンクールの入賞者の中からさらに精選された上澄み、天才の中の天才たちですから(中にはコンクール抜きで有名になる人もいる)。そうそう世の中簡単じゃないですよ。

あと、コンクールは、優れたピアニストを発掘するというのが大きな目的ですけれども、これがあくまでも通過点であることも忘れてはいけません。

結婚や入試と同じで、結婚したらめでたしめでたし、ではなくて、その後の現実がある。しばしば「地獄のような現実」が待っています。コンクールですごく良くても、実はその時がピーク、という人もたくさんいますし。厳しい現実をさらに勝ち抜かないとだめなんですよ。

コンクール優勝者で国際的キャリアを築いたピアニストって誰でしょう。神のように崇められるソコロフ(チャイコフスキー国際優勝)、ルプー(ヴァン・クライバーン、リーズ優勝)、アルゲリッチ、ポリーニ(ショパン国際優勝)、シフ(リーズ国際3位)、、、。しかしコンクールの優勝者や上位入賞者は世界に山のようにいるという現実。

繰り返しになりますけど、コンクールで優勝したから、上位に入賞したからと言ってその人の未来は約束されない。だがしかし彼らは著名コンクールで優勝した、入賞したというプライドを抱えて生きて行くことになる。十字架だね。諸刃の剣だね。

元オリンピック選手が捕まったりすることがあります。ピアノコンクール入賞者も、スポーツ選手のように注目されることはないかもしれませんが、捕まる人、身を持ち崩す人、薬に溺れてしまうひとなど、さまざまです。人生とは残酷なものです。

いやはや、すこし話がずれましたが・・・。ともかくこの本は、クラシック音楽の、ピアノの世界に生きる人達の心の中を垣間見るに格好の本だと思いますね、長い本ですけど、ぜひみなさんにおすすめしたい。

途中のリストのソナタの解釈が長々しくて個人的にはそこにはあんまし共感できませんでしたが(すいません)、全体的にけっこう涙しながら読みました。

ピアノファンへのおすすめ度=200%(絶対読め!級)