クラシック音楽のレコーディングに未来はあるのか

レコーディングに未来はあるのか。悩みますね。でも、あまりありません。まず、70分も入るCDはもう全然必要とされていません。

若い人はCDプレーヤー持ってませんから。かく言う私も、自宅の部屋の模様替えをしてから半年以上、CDプレーヤーが繋がっていない状態です。

CDならあきれるほどたくさん(と言っても筋金入りのコレクターのように万単位ではありませんが、数千枚)持っていますが、いま、自宅で音楽を聴くのはもっぱらネット経由。

若かったあの頃のように、むさぼるように何度も何度も同じディスクを聴く、なんて言うこととも無縁になってしまった。

年をとったのだろうか。そうでしょうね。でも世の中の変化もありますよね。

だいたいショパンのピアノソナタ第2番、とか、それはもう恐ろしい数のCDがあります。そこに新たにあなたのCDをリリースすることに何の意味があるのか?

今やクラシック音楽のCDは500枚売れたらヒットなのです。1000枚超えたら大ヒットです。売れたー!と担当者は喜んでいるはずです。・・・そんな超悲しい状況なのですから、もうCDを作ることはやめたほうがいいのではないか、と思うのですが、世界中でどんどん発売されています。うーん。

クラシック音楽とレシピ

じゃあCD(アルバムと言い換えましょう)を売るためにはどうすればいいのでしょう。私はいつも、クラシック音楽の録音は食べ物のレシピみたいなものだと考えています。同じ麻婆豆腐を作るのに一体いくつのプロのレシピがあるんだろう、それと同じように感じます。

世界に五万とあるレシピの中から、あなたのレシピを選んでもらうには、レシピそのものだけでなく、レシピを作った人の持つストーリーが必要。チョ・ソンジンのアルバムが韓国でバカ売れしたのも、韓国人として初めてショパン国際コンクールで優勝したというストーリーがあるから。

そう言う意味でエレーヌ・グリモーというピアニストの新しいアルバムはうまいですね。「Water」というタイトル。

そもそもグリモーは話題を作るのが上手です。普段からオオカミと暮らしているピアニスト(しかも美人)、と聞けば注目を集めることは間違いない・・(もう今はオオカミとは暮らしていないという話ですが)。そしてこのアルバム「Water」はタイトル通り、水にまつわる内容になっていますが、ただ水にまつわる曲を並べるだけだと大したひねりにならないから、ちょっと変わった音楽を間に挟んでいる。

こうすることで、アルバム全体を通してひとつの作品だよと言うことを明確に打ち出そうとしているわけです。これなら、繰り返し聞いてもいいかな、と、思ってもらいやすいかと思います。アルバムを出すのであれば、こういう仕掛けが今後は必要でしょうね。

グリモーはこういう仕掛けをしてくるところが、うまいなと思わせられます。

充分に売れっ子なのにもかかわらず、生き残るために何が必要かを考え、実行しようとしている。本人はそうは考えてはいないかもしれませんけれど、他人とはたしかに違う。

エレーヌ・グリモーの新しいアルバム「Water」のトレイラービデオ:

→エレーヌ・グリモーのオフィシャル・サイト
http://helenegrimaud.com/