指使いについて深く考えたことはありますか

ピアノを弾くにあたって、指使いについて悩まない、悩んだことがないという人は極くまれでしょう。指使いを変えた瞬間に、それまでどうしてもうまく弾けなかったパッセージが一気に弾けるようになった、という夢の体験をした時の歓びは、何にも代え難い。

しかし、指使いについて考えることって、ピアノの練習においてどれぐらいのウェイトを占めるものでしょうか。それほどでもないでしょうか。指使いについて言えば、買った楽譜に書いてあるとおりですという人も意外と多いのではと想像するのですがみなさんいかがでしょう。

「ピアニストやピアノの専門家が一生懸命考えた指使いが楽譜には書かれているのだから、しろうとの私ごときが考えたってとてもそれにまさる指使いなんて思いつくはずがない」なんて、思っていませんか。それは大きな間違いです。

結論を先に書きましょう。楽譜に書かれている指使いは、無視してよろしい。

グレアム・フィッチというピアニストが書いていた文章を読んでいてうだうだと考えていたのですが、きっと欧米のピアノ教育の現場でも、楽譜に書かれている指使いに対する信仰みたいなのがあるんでしょう。じゃなければこんな文章書かれないでしょうから。

When people purchase an expensive Urtext edition, they assume that all the markings are somehow gospel, including fingerings. In fact, the fingerings are the work of a specialist editor who has been given the impossible task of writing for the average hand. Trusting a printed fingering implicitly is like going into a department store to buy a jacket to find they only have one size. Forget male or female; small, medium or large – one size must fit all, no matter your age or physical proportions.

高価な「原典版」に書かれた内容は全て(指使いを含め)神からの福音である、と人は考えがちだ。しかし楽譜に書かれた指使いは、校訂の専門家による、平均的な手のために書くという不可能なタスクへの回答なのである。これはデパートへ行って、サイズが一つしかないジャケットを買うようなものだ。男性であるか女性であるか、手が大きいか普通か、小さいか、ということは考慮されていない。年齢、体型にかかわらず、一つの指使いがすべてなのだ。

https://www.pianistmagazine.com/news/learning-the-piano/fingering-advice-how-to-find-the-fingering-that-works-best-for-your

原典版だからといって、指使いが正しいわけじゃないからね、という事はねもねも舎からも強調しておきたい。校訂した本人の思い入れの強い奇妙な指使いに出会うこともしばしばですし。たとえばベロフのドビュッシーの楽譜(ウィーン原典版)とか、面白いですよ。けなしているわけではなくて、癖のある指使いなんで、面白いなーこういう指使いもあるのか、と思うんです。

というわけで、自分にあった指使いをみつけよう!ということが上のページには書かれているわけです。どうすればいいかというと・・・。

・楽譜に指使いを書き込む
・一度決めたからといってそれにこだわり続けない(もしかしたらもっと
いい指使いを思いつくかも)
・いろんな楽譜を見て参考にする
・運指について書かれた本をよむ(そんな本があるのか!!と驚愕)

ご覧の通り即効性のある何かを教えてくれているわけではありません。指使いに即効性もないからね・・・。

いろんな楽譜を見る、という点については、いっぱい買うとそれだけお金もかかりますからそんなにたくさんは買えませんけど、面白かったのは、一般的に「悪い」と言われている版でも、指使いは素晴らしい場合がある。と書かれている点ですね。日本人はゼロか100かが好きで、その間をとって行くのが苦手。議論を始めても、その人の意見ではなくその人自身を貶す全否定になってしまいがち。

悪いと言われる版でも、もしかしたら音やフレーズの間違いがあったりするかもしれないけれど、指使いについてはどうかな、と常にオープンな姿勢でいるべき、というのはなかなか含みのある言葉だと思うのですがね。

その一つの例として、ツェルニー版のバッハの楽譜を、グレアム・フィッチは挙げています。ツェルニーは「この楽譜で原曲にいろいろ修正や追加を施しているが、指使いについては素晴らしいものがいくつもある」。なるほどね・・・・。

ツェルニー万歳!!(そこかよ)