ピアニストの苦悩、ピアニストは楽じゃない

音楽家、それは移動する生き物です。

ピアニスト、いいなあ、という純粋な意見をお持ちの方にはきつく申し上げておかないといけませんが、ピアニストは、かなりつらい職業です。理由は、挙げだすといくつも出てきます。

ピアニストに向かって、ピアニストっていうのは、タフな(しんどい)職業ですよね、と言ってみて下さい。ほぼ全員から、例外なく、最悪の職業だ、と自虐を込めて答えが帰ってくるでしょう。

ピアニストでよかった、ピアニスト万歳!と言った人を私はいままでに残念ながら?知りません。

ホロヴィッツの有名な言葉、というか、心に響く言葉として記憶しているのが、舞台袖から舞台を指して「あそこが人生で一番孤独な場所だ」と言ったとか言わないとかいう発言です。うん、つらいですね。舞台上でなにかが起こっても誰も助けてくれません。孤独です。

それから、ピアニストは皆一様に「旅から旅で、全く落ち着くことがない」とも言います。いろいろな場所に行けていいでしょう?と言われるかも知れませんが、実際には空港からホテル、ホテルからホール、ホールからホテル、ホテルから空港、これのひたすら繰り返しで、街を見ている暇なんて全くありません。自宅にもほとんど帰れないしね。

サイトシーイング、したいけど、まあ次回だね、次はヴァケーションで日本に来たいもんだ、と言って帰っていく人たち・・・。そしてヴァケーションで来ることはまずないのだろうな、と思いながら満面の笑顔で送り出します。日本に観光で来ることがあったら案内するから連絡してね!もちろんさ、わかったよ(当然のこととして、誰ひとりとして連絡をくれたことがありません)

でもピアニストはまだましなんです。ヴァイオリニストの苦悩はさらに大きい。彼らは自分の楽器を常に持ち運びますが、近年、入国審査でヴァイオリンを取り上げられてしまうという恐ろしいケースや、航空会社がヴァイオリンの機内持ち込みを拒否するケースが出てきており、ピアノと違いウルトラ高額な楽器を持ち歩く彼らにとっては、そういうケースにあたってしまった場合、悲惨。

これまでのケースでは、最終的にはみなさんなんとかなっていますが、そこまでに至る労力などを考えると、つらい。

アメリカのヴァイオリニスト、レイチェル・バートン・パインがアメリカン・エアラインに楽器持ち込み拒否された、いろいろと説明を試みたが、機長が「俺がダメだというからダメだ」と言ったらしい、とかいうニュースを見て、つらつらとそう思いました。久しぶりに写真を見ましたが、だいぶふくよかにおなりになっていたのにもやや驚き。

そんなわけでピアノを機内に持ち込んで移動する人たちは、今後ぜひご注意下さい(そんな人はいません)。