おそらくほぼ全てのピアニストにとっての悪夢

ピアニストのほぼ全員にとって共通の悪夢というのは、「弾いたことのない曲を弾かなければならない状況に置かれている、しかも自分はステージ上にいる、もはや待ったなし!」という夢だと思います。

私も、ピアニストを目指した時期がありましたから、昔はそういう夢を何度も見ました。弾かなくなって10年以上が経過し、今になってようやくなくなりましたが。

ステージにいて、オーケストラがスタンバイしていて、お客さんが入っている。しかも弾いたことのない協奏曲、ラフマニノフのパガニーニ狂詩曲とかを弾く、というような状況なんですよ。

しょうがないから弾き始めるが全然ちゃんと弾けない、ああ、、どうするどうする、というところで醒める、そういう夢です。

時々、というか折に触れて話題になるこの動画。ピリスが間違った曲を用意していたため、リハーサルで凍りついた、というものですが、

凍りつきますよね。分かります本当に。これはつらい。

しかし驚くべきことにピリスはちゃんと弾き通したというからすごいですよね。

この動画の説明ではアムステルダムでのランチタイムコンサート、と書いてありますが、この演奏はコンサートの時のものではなく、公開リハーサルの時の模様です。しかも映像にはウィーンのコンサートのポスターが流れるのでウィーンでのコンサートかと勘違いするかもしれませんが、会場はアムステルダムのコンセルトヘボウです。

赤いひものポールがピリスの後ろに見えますね。ステージ上にポールがあるのはアムステルダムのコンセルトヘボウ以外にまず考えられません。

それにしても、普通指揮者とピアニストはリハーサルの前に打ち合わせをするものですが、この時は時間がなかったのでしょうね。

関係者に聞いて知ったのですが、この時ピリスは誰か別のピアニストがキャンセルして急遽代役で弾くことになったそうです。なのでぎりぎりにアムステルダムに到着し、打ち合わせなしでリハに望んだとしても不思議はないですね。

映像を見ていると、二人がやり取りするんですが、指揮者のシャイーが「昨シーズンこの曲弾いたろ」と言うシーンがあります。シャイーにしてみたら、最近ピリスとこの曲をやったから急遽の代役でも弾けるだろう、と思ったでしょうし、口にしたのかもしれないですよね。

ところがピリスは違う曲だと思っていたと。悲惨だ。

これも関係者に聞いた話ですが、この時はピリスの間違いではなく、伝言ゲームで誰かが間違った曲をピリスに伝えてしまった、というのが真相だそうです。

おお、悲惨。

公開リハーサルということは、この時はうまく弾けても、このあと本番でも弾かないと行けない、、、という、1回だけでは終わらぬ苦しみがあったのです。

なおコンセルトヘボウ管の定期演奏会は2回とか3回とかあることが多いですし、ウィーンでのコンサートもあったのなら、他の会場での公演もあったかもしれず(ヨーロッパツアーをしたのかもしれず)、さらに何回も弾かなかったのではないかと。

おおおお、悲劇。

・・・そしてちゃんと完璧に弾いたというピリス凄すぎ。